アンダマンの女神

女神様が助けてくれたに違いない。

2013年4月。私はインド連邦の直轄地であるアンダマン・ニコバル諸島をめざした。日本から、マレーシアを経由して南インドのチェンナイへ、翌日、また飛行機を乗り継いでやっとこさ、行政府所在地であるポートブレアへという長旅。まあ、遠いわ。

ポートブレアはその昔、インド独立を叫ぶフリーダム・ファイターを収監した刑務所があったところで、当時のインド人にしたらカラパニ(黒い水)の先のもう生きては帰れない絶海の孤島の町だ。

今、刑務所は観光施設になって、夜は光のショーなども行われているのだが、拷問の様子を生々しく伝える人形や絞首刑が行われた場所もそのまま残っており、胸に迫るものがある。

この刑務所は第二次世界大戦中、インド独立を目指すインド自由政府を支援する大日本帝国軍の管理下にあったこともある。当時のあまりに悲惨な状況は割愛するが、この地で何が行われたのかを忘れてはならないと強く思う。

そんなわけで、身体的な疲れに、精神的な疲れも加わってへとへとになってしまった私に、また翌日、試練が待っていた。

 この船で4時間の船旅。

目的地ハブロック島に着いた時には疲労はピークに達していた。

早く寝たいのに、前日の独房のひんやりした感触が体に残り、神経が高ぶってなかなか、寝付けない。何度も寝返りを打ちながら、それでも、いつしか、眠りに落ちたらしい。

 

私は薄暗い病院にいた。診察室に入ると、若い女医さんが、「すぐに入院してください。至急です。」という。いわれるがままに、入院して、ベットに寝ていると、慌ただしくさっきの女医さんが病室に入ってきた。

「これから注射をします。」といって、注射器を取り出した。全部で8本あった。私はおとなしく、治療を受けて、夢の中で眠った。

 

そして、朝、目を覚ますと、あれほど悪かった体調はすっかり、元にもどっていたのだ。それはそれは不思議なくらい。

私は密かに、あの女医さんは実はアンダマンの女神様で、私を助けに来てくださったのではないかと思っている。