地上4000mにどうして牛がいるのだ?
ムガール帝国第4代皇帝ジャハーンギールが「この世のパラダイス」と呼んだジャムー・カシミール州の夏の州都シュリナガル。そこからさらに、車で南西に2時間あまりのところにインドのスイスといわれるグルマルグはある。冬は雄大なヒマラヤ山脈を見ながらバックカントリーライドを楽しめるというスキー好きにはたまらないスキーリゾートだが、高山植物が色とりどりに咲き乱れる夏のグルマルグは息を吞む美しさだ。
私が訪れたのは8月、標高2545mの麓の駅からゴンドラを乗り継いで、標高3950mのアファルワット駅に到着すると、ザラメ砂糖のような残雪が出迎えてくれた。雪はほどんど消えているのだが、スキー場は営業中。10mほどスキーに乗せてくれて、法外な料金を取る。

遊園地のアトラクションみたいな感じだ。

そこから、ごつごつした岩山を這うようにして山頂をめざす。岩と岩との間に咲く花々のなんと可憐なことよ。一体何十種類の花があるだろう。グルマルグとは花に満ちた草原という意味と聞いたが、その名に違わず、妖精でも出てくるような気がしてくる。
そして、牛だ。インドでは牛はそこら中で見かけるけれど、まさか、標高4000m地点までいるとは驚くばかりだ。一体どうやって登って来たのだろう。興味を惹かれて牛のいる方に向かうと、突然バナーが見えた。

なんだろうと思って近づくと「Trespasser will be prosecutedー侵入者は告発される」の文字。すぐそこには軍の野営地も見える。そちら側はパキスタンなのだね。急に、現実に引き戻されて、のんきに旅する自分をちょっと恥じる。

そして、自分の日常に逃げ帰りたい衝動にかられた。
家に帰ろう。また、すぐにどこかに行きたくなるのだけど。