カジュラホで困る

カジュラホの太陽はやけに眩しい。

さて、困った。身の処し方が分からない。全くもって、やばい所に来てしまったというのが正直な感想だ。おびただしい数のミトゥナ像(性的結合の意)と呼ばれるエロティックな彫刻が寺院の壁面を覆っている。目のやり場に困って空を見上げる。やや西に傾いた太陽が眩しい。

世界遺産カジュラホの寺院群はインドの中央部、マディヤ・プラデーシュ州北部の小さな美しい村にある。

ここはかつてラージプート系王朝、チャンディーラ朝の都があった所で、紀元950年から1050年頃にかけて80を超える寺院が建てられた。現在も25の寺院が残っているが、その特徴をなすものはなんといっても、壁面を埋め尽くすその官能的な彫刻だ。これらの寺院が建立された当時、インドではタントラ派という宗派が隆盛を誇っており、生命を育む大地母神の女性原理、性力(シャクティ)が崇拝対象となっていた。

 

古代インド人は人生の3大要件として、法(ダルマ:この世の秩序。絶対善ではない)、実利(アルタ:富あるいは富を手に入れる手段)、愛(カーマ:愛欲と愛の快楽の追求)を掲げ、これらについての正しい知識を学んで、解脱(モークシャ:現世の苦悩から解放されて絶対的自由の境地に立つ)に至ることを究極の目標としており、愛の快楽は追及されるべき重大案件なのだ。

この3大要件については実に多くの経書(スートラ、シャーストラ)が作られたが、カーマについても多数の経書が残っているらしい。この内、最も古く、権威があるとされているのが有名なヴァーツヤーヤナ(4世紀頃)の『カーマ・スートラ』で、総説、性愛、少女親近,妻女、他妻親近、遊女、奥義の7篇で構成されているらしい。(私は未読^^;)

この他にも、コーッコーカ(11世紀頃)の『ラティ・ラハスヤ』、カヴィシェーカラ(13世紀頃)の『パンチャ・サーヤカ』、カルヤーナマッラ(16世紀頃)の『アナンガ・ランガ』などがあり、性愛に関する正しい知識を今に伝えているらしい。

なんでも教科書を作ってしまうところはさすがインド人。因みに、「窃盗術」の指南書も多くあり、その道の権威もおられるようで、その酔狂さには舌を巻く。