パッタダカルの世界遺産 ヒンズー寺院群遺跡
国内外を問わず、自然や歴史的建造物、土地の食べ物あるいはカルチャーショックを含めて、その土地の文化や風俗にふれることももちろん素晴らしいが、人との、それも、一期一会の出会いは特別だ。3時間の観光より、5分の会話の方が長く記憶に残る。今回はそんな短い出会いの話。
パッタダカルはドラヴィダ系王朝、前期チャールキヤ朝(550年-753年)の首都バダミから車で1時間ほどのところにある美しい村だ。
アーリア系のラーシュトラクータ朝よって滅ぼされてしまうまでの、およそ200年間、デカンから南インドの広大な地域の覇者となったチャールキヤ王朝が、主に7世紀から8世紀にかけて建造した寺院群が今もほぼ無傷でこの地に残る。ヒンドゥー建築の揺籃期から成熟期へと向かう変化の過程をも示す、非常に貴重な世界遺産だ。
また、これら寺院は本殿の屋根の部分(シカラ)が、ピラミッド型の南インド様式、ヒマラヤを模したと言われる砲弾のような形をした北インド様式、さらにはさまざまな地域のスタイルが混在している寺院もあり、極めて珍しい遺跡群となっている。
パッタダカルの校長先生
さて、早朝、パッタダカル村を訪れた時のこと。遺跡を案内してくれていた地元のガイドさんが、「あ、じいちゃんだ。」と嬉しそうに言った。見れば、礼拝を終えた小柄な老人が、早朝の日輪の光を背に受けながら、階段を静かに下りてくる。あまりに美しい光景にしばし呆然としていると、老人と目があってしまった。慌てて、「お孫さんに案内していただいているのです。」というと、微笑みが返ってきた。
ガイドさんのじいちゃんは92歳。昔、学校の校長先生をしていたという。日本について知っている限りの単語を並べて、見ず知らずの私をもてなしてくれる。
自然とインド式の年長者に礼を尽くすお辞儀(ひざまずいて足に触る)をしてしまったのだが、その間、彼の長い長い祝福が続くので、立つ頃合いがわからず、ちょっと困った。パッタダカルの素敵な思い出。